「孫を、老人だらけの国で育てたくない」
2024年5月、東京・六本木のオフィス。
58歳の青木ルーカスは、険しい表情でパソコンの画面を指さした。
「日本の新生児数が過去最低を更新、100年後の人口はわずか3600万人に」
千億円規模のファンドを率いる金融界の巨頭も、この瞬間ばかりは一人の父親の顔をしていた。
「娘はハーバードでAI倫理を研究しています。ビデオ通話のたびにこう聞かれるのです。
『お父さん、なぜ日本に戻ってこんなことをしているの?』
青木は、淹れたばかりのコーヒーを手に取り、カップの底に映る東京タワーを見つめながら静かに答えた。
「それはな……孫をディズニーランドに連れて行ったとき、スタッフが全員白髪の老人だった──なんて未来を、見たくないからなんだよ」